顎関節症
顎関節症とは?
①関節雑音
②顎関節あるいは咀嚼筋の機能時疼痛
③下顎運動の制限(開口障害)
これら3つの症状を特徴としています。
有病率は10〜20%で、20〜30才代が最も多く特に女性に多いとされています。
その後の年代では減少していくself-limiting(自己寛解型)な疾患であるとも言われています。
関節雑音
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関節雑音には、「ゴリゴリ」「ジョリジョリ」という低い音のクレピタス と、「カクン」という弾撥音(だんぱつおん)であるクリッキングとがあります。
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下顎頭と関節窩の間には、関節円板と言うクッションみたいなものが存在していますが、この円板が完全に所定の位置からずれてしまったり、老朽化して穴があいたりするとクレピタスが起こります。
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他方、円板が前方や側方に僅かにずれると、口を開閉する時にクリッキングが起こります。
(ずれていた関節円板が所定の位置に戻る時、または所定の位置からずれる時に発生する雑音)
顎関節あるいは
咀嚼筋の機能時疼痛
咀嚼筋障害を主徴候とし、その病理は筋緊張と筋スパズム、筋炎です。
顎関節部の運動痛と運動障害を僅かに生じることがあり、筋痛を強く生じます。
下顎運動の制限
関節円板の位置が復位しない(非復位性関節円板転位)結果、ひっかかりのための開口障害が起こります。
顎関節症の原因
顎関節症は多因子疾患
顎関節や咀嚼筋の解剖学的要因、ストレスや不安などの心理社会的要因、睡眠時ブラキシズムや習癖行動のような行動要因など、様々な要因が関係する『多因子疾患』と言われています。
しかし、どの寄与因子がどの程度存在すると発症するのかということは、現在のところ分かっていませんが、発症の機序は『積み木理論』で説明されています。
『積み木理論』とは?
各要因は『寄与因子』といい、寄与因子と顎関節症との関係は『積み木理論』で説明されます。
すなわち、寄与因子が積み重なり、生体の耐久力を越えてしまうことによって顎関節症が発症するというものです。
コップと水
コップを耐久力の限界、水を寄与因子と考えてみましょう。
コップの縁までは、いくら水が注がれても溢れません。
(顎関節症は発症しない)
しかし、それ以上の水が注がれると溢れてしまいます。 (顎関節症が発症する)
耐久力は各個人によって異なります。さらに寄与因子の大きさもばらばらなので、原因を特定することは非常に困難だと考えられます。
寄与因子の中での ”力”
多くの因子の中でも、関節や咀嚼筋に加わる”力”の影響は少なくないと言われています。
顎口腔系に加わる力は、
①咀嚼や会話など使われる機能的負荷
②本来不必要な非機能的負荷
に分けられます。
非機能的負荷は、外傷やブラキシズムなどであり、本来はなくても良い負荷であることから、生体はそれらに対する耐久性や防御機構を持っていないとされています。
ブラキシズム
ブラキシズムとは顎の異常な動きのことで、歯ぎしり(グラインディング)や食いしばり(クレンチング)、カチカチ噛む癖(タッピング)のことです。
このブラキシズムは筋肉の緊張によって起こります。
さらに、ブラキシズム自体が筋肉の疲労を生み、筋肉の痙攣を引き起こします。
またブラキシズムは、
①睡眠時ブラキシズム
②覚醒時ブラキシズム
に分類されます。
近年、これらのブラキシズムの他に上下歯列接触癖という考えが提唱されています。
上下歯列接触( Tooth Contacting Habit : TCH )
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上下歯列接触癖とは、上下の歯または歯列を持続的に接触させる習癖行動と定義されています。
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通常、健常者の機能的負荷は、平均17.5分と言われていますが、咀嚼筋痛のある患者では、接触時間が約4倍も多かったという報告もあります。
治療法
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顎関節症の治療は原則として、原因や誘因を除去する治療法が主となり、顎の安静や咬合異常の整復を目的とした様々な治療法が存在します。
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通常は、薬物療法や、原因となる噛み合わせの調整のためスプリント療法を行います。
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覚醒時ブラキシズムや上下歯列接触癖の場合には、自己暗示療法を試みます。
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多くの場合、臨床症状は時間の経過により緩解ないし消失に向かうと言われています。
しかし、10〜15%の症例では臨床病状の遷延化ないし悪化をきたすと言われており、そのような場合は口腔外科のある病院を紹介受診していただきますが、この少数ですが重要な患者群についての研究が、今後の課題です。
注意
好発年齢は20〜30代と言われていますが、近年、小学生や中学生にも発症しています。
ある日突然、口が開かなくなったり、クリッキングが起きたりします。
このような場合にはなるべく早く診察することをお勧めします。